経営力向上計画の活用で「上手に起業」
これから起業を考えている方。すでに起業して事業の拡大を目指している方。”税制面”や”資金面”で悩んではいませんか?もし、税制面や資金面で悩んでいるのなら”経営力向上計画”の策定をお勧めします。
経営力向上計画とは中小規模事業者を対象に、国が様々な支援を提供するというもの。特に、”税制面”や”資金面”での支援が受けられます。経営力向上計画を策定することで”上手な企業”、 ”上手な会社経営”ができますよ!
”経営力向上計画”と聞いて、ピンッとくる方は少ないのでは?
では、まずは経営力向上計画とはどのような支援、措置なのかについて見ていきましょう。
”経営力向上計画”とは人材育成やコスト管理、経営力の向上を目指した計画書のこと。中小規模事業者を対象に計画書を申請し、国(事業別の主務大臣)に認定されれば”税制面”や”資金面(金融面)”での支援を受けられるものです。
起業はもちろん、事業の拡大には常に設備投資がつきもの。しかし、設備投資には相当な資金が必要に、かつ固定資産税などの税金もかかってきます。経営力向上計画を活用することで設備投資にかかる費用を、税金などの負担を抑えられる訳です。
”経営力向上計画”の制度を利用する上で、まず知っておきたいポイントが3つあります。
まず、経営力向上計画では国(事業別の主務大臣)に対して、”計画書の策定”をする必要があります。申請書類(計画書)は2枚、以下の4つの内容を記載します。
企業(または、起業)としての現状を把握し、その上で目標に向けてどう活動するのかを明確にするのが”経営力向上計画”。国の制度なだけにシビアに審査される重要なポイントです。
次に、経営力向上計画では認定経営革新等支援機関より”計画書策定のサポート”を受けられます。認定経営革新等支援機関とは商工会議所や商工会、中央会や地域金融機関などです。また、”経営診断ツール(ローカルベンチマークなど)”を使うことでも経営力向上計画は作ることができます。
経営や経理、事務などの専任者を配置できる大企業とは異なり、中小規模事業者のほとんどは国の事業に関する知識も経験もありません。「経営力向上計画って何を書けばいいの?」と迷ってしまうもの。計画書の策定は支援を受けるための第一歩です。分からないことは各支援機関に相談しましょう。
最後に、経営力向上計画に認定されれば”計画実行のための支援”を受けられます。国(または行政)から受けられる支援措置としては”税制面”と”資金面(金融面)”の大きく2つ。
この後詳しく紹介しますが、経営力向上計画に認定されることで”資金の調達”がよりしやすくなります。というのも、経営力向上計画は国から経営内容に一定の評価を受けている証なため。金融機関も安心して融資できるためです。
経営力向上計画に認定されることで国や金融機関から税制面、資金面での様々な支援措置が受けられます。
では、経営力向上計画を利用する上での3つのメリットについてご説明しましょう。
まず、経営力向上計画では”税制面”での支援措置が受けられます。
計画書に基づいて投資した設備に関する、”固定資産税の軽減措置”を受けられるというもの。取得した年度から3年間に渡り、固定資産税が年間半分にまで軽減されます。また、”中小企業経営強化税制”と合わせることで設備投資にかかった費用の”即時償却等”も可能です。
固定資産税とは土地や建物、設備などの”資産”に対して課税される税金のこと。固定資産税は資産を取得してから年々減額されるものですが、資金力の弱い中小規模事業者にとっては大きな出費です。そんな固定資産税を3年間に渡り、年間半分にまでできるのならより積極的に設備投資ができます。
次に、経営力向上計画では”資金面(金融面)”での支援措置も受けられます。
計画書に基づいた投資に関して各金融機関から必要な融資、支援を受けられるというもの。例えば、日本政策金融公庫や商工中金からの”低利融資”、信用保証協会からの”特別枠融資”など。中小企業基盤整備機構などからの”債務保証”を受けることも可能です。
日本では設備投資にかかる費用を、各金融機関から融資という形で捻出するのが一般的です。しかし、融資には常に”審査”と”金利(利子)”がついてきます。投資したくとも審査が通らない…、設備を設置しても金利によって返済できない…、ということも。簡単かつ低金利に借りられれば、より安心して設備投資ができる訳です。
最後に、経営力向上計画では”補助金”を優先的に受けられる支援措置もあります。
2018年現在、国や行政から事業に関する様々な”補助金(または助成金)”が提供されています。例えば、経済産業省からは”後継者継承支援型”や”IT導入支援事業”などです。中小企業庁からは”創業補助金”や”小規模事業者持続化補助金”など起業向けのものも。
どの補助金も予算があるだけに、苦労して書類を提出しても認可されないことがあります。その点、経営力向上計画の認定は国からの一定の評価につながります。100%ではないものの、他の事業者に比べて各補助金(または助成金)の審査、認可に通りやすくなるのは確かでしょう。
※補助金(助成金)は公募期間ごとに変わります。上記は、2018年5月時点のものです。
経営力向上計画では税制面において、固定資産税の軽減や投資費用の即時償却ができます。では、税制面の支援措置についてより詳しくご紹介しましょう。
経営力向上計画に認定されることで、計画書に基づいた設備投資に対する”固定資産税が3年間半額”に。ただし、以下の条件(要件)に該当する設備である必要があります。
つまり、中古品または旧モデル品は対象外ということに。また、機械装置や工具、備品など設備の種類、業種によっても条件が細かく規定されています。”中小企業庁”などのホームページで確認しておくと安心です。
”設備投資の費用を即時償却”も、経営力向上計画に認定されることで可能です。しかし、費用の即時償却もまた、以下のような条件に該当する設備である必要があります。
設備投資すると設備の耐用年数に応じて、期ごとに利益から一定額を”減価償却”するのが一般的です。その点、即時償却とは設備投資にかかった費用を同期に全額償却できるというもの。同期の経費を大幅に増やせる訳です。
固定資産税の軽減、即時償却による経費の計上などをしようにも、設備投資するための資金がなければ実践できません。
では、経営力向上計画の”資金面(金融面)”の支援についてより詳しく見ていきましょう。
日本政策金融機構から設備投資にかかる資金を”低利融資”で受けられます。
商工中金からも設備投資にかかる資金を”低利融資”で受けられます。
貸付限度額や金利、期間については各商工中金の融資制度によって様々。もちろん、通常の限度額、基準金利と比較すると有利に設定されています。地域の商工中金に問い合わせてみるのが良いでしょう。
信用保証協会からは設備投資にかかる資金を”特別枠融資”で受けられます。
”中小企業信用保険法の特例”により、民間金融機関からの融資の追加保証、保証枠の拡大が受けられるというもの。ただし、”新事業活動(自社にとって新しい商品・サービスなど)”にのみ適応される融資です。
通常枠 | 別枠 | |
普通保険 | 2億円(組合4億円) | 2億円(組合4億円) |
無担保保険 | 8,000万円 | 8,000万円 |
特別小口保険 | 1,250万円 | 1,250万円 |
新事業開拓保険 | 2億円→3億円(保証枠の拡大) | |
海外投資関係保険 | 2億円→3億円(保証枠の拡大) |
中小企業投資育成株式会社法からも設備等に関する資金の”特例投資”を受けられます。
一般的にこれら投資の対象になるのは資本金3億円以下の中小企業のみ。その点、中小企業投資育成株式会社法では通常の対象(資本金3億円以下)に、資本金3億円以上の事業者(中小規模)も対象となっています。
日本政策金融公庫からも”スタンドバイ・クレジット制度”という形で融資(投資)を受けられます。
スタンドバイ・クレジット制度とは海外現地法人等(海外支店など)に対する、現地通貨での資金調達のための制度のこと。主に”信用状の発行”により現地の提携金融機関から現地通貨での融資を受けることが可能です。
中小企業基盤整備機構からは”債務保証”も受けられます。
債務保証とは債務者が債務を履行しない場合に、第三者が責任を保証するというもの。第三者(保証人)は債務不履行に対して、債務者と同等の弁済義務を負うというものです。
食品流通機構改善促進機構からも同様に”債務保証”が受けられます。
食品の流通に関わる事業にかかる費用、融資や投資の債務保証を受けられるというもの。主に民間機関からの融資、投資をより円滑に行うために導入されている事業です。
経営力向上計画の策定をすることで起業、事業拡大にかかる資金、税金を抑えられます。
しかし、経営力向上計画はあくまで資金力に不安のある”中小企業事業者”を対象とした制度です。
経営力向上計画の認定を受けられるのは以下のような”中小企業者等”です。
会社または個人事業主 医業・歯科医業を主とする法人 (医療法人等) |
社会福祉法人 特定非営利活動法人 |
||
資本金 | 右欄の上下の どちらかで判断する |
10億円以下 | |
従業員数 | 2,000人以下 | 2,000人以下 |
※中小企業庁(経営力向上計画)より
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/2016/160701tebiki.pdf
上記から分かる通り、個人事業主や中小規模事業者のほとんどが該当します。ただし、税制措置や金融支援は支援措置ごとに対象要件が異なります。中には、上記に該当していても受けられない支援措置もある訳です。利用したい支援措置が決まっているのなら、対象要件に当てはまっているのか対応する機関に確認しておくのが良いでしょう。
経営力向上計画で支援措置を受けられる、中小企業者等についてもう少し詳しくご説明しましょう。
上記からも分かる通り、経営力向上計画における”中小企業者等”の範囲は広いことが分かります。「対象かどうか分からないから…」と諦めるのではなく、まずは近くの商工会や中央会などに相談してみるのがお勧めです。
経営力向上計画は国、行政の進める制度なだけに策定から認定、支援措置を受けるまでにしっかり流れを踏む必要があります。
では、経営力向上計画で支援措置を受けるまでの大まかな流れをご説明しましょう。
経営力向上計画の書類等を準備する前に、まずは”事前準備”からです。
というのも、経営力向上計画は”中小企業者等”を対象とした制度。先述した中小企業者等の範囲に該当していないと申請さえできません。制度の対象なのかは間違いなく確認しておくことが必要です。
また、経営力向上計画に認定された後、どのような支援措置を受けるのか決めておくのも良いでしょう。支援措置によっても対象が異なるので、調べておくだけでも計画書の策定をよりスムーズにできます。
次に、”経営力向上計画の策定”に関わる計画書等の作成を進めていきます。
申請書類は下記の4枚。
先述した通り、経営力向上計画の策定のポイントは4つ。
上記の4つを踏まえた上で、必要となる支援措置に合わせた内容、計画にすり合わせる必要があります。正直、計画書等の作成には手間と時間が。分からないことは商工会などに相談するのがミスも少なくて安心です。
次に、作成した計画書等の書類を”経営力向上計画の提出先に申請”します。
実は、経営力向上計画の提出先は業種によって異なるのです。というのも、経営力向上計画の認定をしているのが各業種を統括する”事業別の主務大臣”なため。業種ごとの提出先は中小企業庁の”経営力向上計画相談窓口”に問い合わせれば確認できます。
計画書等を申請すれば、あとは認定されるのを待つだけ。国や行政の制度なだけに書類等はきっちり作る必要はありますが、準備さえしっかりしておけば通るはずです。ただ、あまりにも実践の難しい計画書だと通らないこともあるので、あくまで現状を見据えた上での計画書にしましょう。
最後に、経営力向上計画を認定されたら、計画書に基づいて経営力向上の取り組みを進めます。
計画書を実行することで税制措置、金融支援などを受けられるため。計画書と異なる取り組みをしても、税制措置や金融支援は受けられません。また、経営力向上計画を変更するには、若干の変更を除いて各提出先で再申請(変更申請)する必要があります。
経営力向上計画では計画を練り、書類等におとしこむことが求められます。
では、経営力向上計画の策定を有利にする2つのポイントについてご紹介しましょう。
経営力向上計画の策定では”事業分野別指針を押さえた”ものにする必要があります。
というのも、経営力向上計画では業種によって”事業分野別指針”が定められているため。2018年5月現在、事業分野別指針には全17の分野が策定されています。分野ごとの指針に合わせた内容でないと認定されないのです。
ちなみに、どの分野にも当てはまらないときは、”基本指針”に合わせた内容で作成します。
経営力向上計画の策定では”経営力向上の内容を具体的”にすることも重要です。
経営力向上計画の1番の目的が、”中小規模事業者の人材育成やコスト管理、経営力の向上を目指す”というものなため。実行することで経営力が向上し、事業拡大につながる必要があるためです。
当然、実行するためには具体的な内容である必要があり、不十分では認定さえされません。
経営力向上計画は中小規模事業者の悩みである税制面、資金面を軽くしてくれる制度です。
しかし、国や行政の制度なだけに細かな部分が複雑で分かりにくいもの。
そこで、経営力向上計画によくある質問をまとめてみました。
経営力向上計画の提出先は事業分野によって異なります。まず、現在の事業分野がどこに該当するのかを”日本標準産業分野”にて確認しましょう。その上で、中小企業庁の”経営力向上計画相談窓口”に問い合わせれば分かります。
複数の分野(事業)にまたがるものだったときは、計画書等に該当する全ての事業分野を並記します。その上で、経営力向上計画の提出先は、該当する担当省庁のいずれか1箇所に提出するだけで大丈夫です。
経営力向上計画を提出し、認定されるまでには標準で30日、複数の分野(事業)にまたがるときは45日かかります。国や行政の制度なだけに申請する中小規模事業者の総数も相当なもので、どうしても申請から認定までには時間がかかるのです。また、書類等の差し戻しも考えられるので、余裕を持った申請をお勧めします。
経営力向上計画の内容に基づいて取り組んだものの、目標達成できなかったとしても認定が取り消されることはありません。ただし、経営力向上計画の内容に基づいた事業が行われていなかったときは認定が取り消されることがあります。計画書には実行できる内容、実行する予定の内容を記載しましょう。
今回は、国(または行政)の主導する制度”経営力向上計画”についてまとめてみました。いかがでしたか?経営力向上計画の目的は”中小規模事業者の経営力の向上を手助けする”というもの。主に”税制面”と”資金面(金融面)”で支援するというものです。
上記の他にも様々な支援措置があり、どれもが中小規模事業者を税制面、資金面で支援する内容です。中小規模事業者にとっていかに税金を抑え、資金に余裕を持たせるのかは大きな課題と言えます。正直、税制面や資金面で苦労している方も多いはず。
ただし、国の主導する制度なだけに、経営力向上計画には対応する計画書等を作成し申請、認可されてから実行と手間と時間がかかります。計画書を申請、認可されるまでには標準で30日間、場合によっては45日以上かかることも。書類等の差し戻しもあるので、経営力向上計画は余裕を持って申請しましょう。
ちなみに、経営力向上計画の策定は初めてだと分からないことばかりかと思います。書類等の内容が不十分で差し戻し…、なんてことも十分にある訳です。もし経営力向上計画の策定に不安があるのなら、商工会や中央会などの”認定経営革新等支援機関”に相談するのが安心です。
ぜひ、経営力向上計画を策定し、支援措置を受けて”上手な起業”、”上手な会社経営”につなげてください。
2018.05.10